本文へスキップ
接続空間

つながりすぎたオフィス——接続空間における集中の再設計

つながりすぎたオフィス——接続空間における集中の再設計

要点

  • 接続されたオフィスでは、通知・在席表示・各種ツールが常時つながり、集中が細切れにされやすい。
  • 中断後に元の作業へ戻るには相応の時間がかかるという、注意と中断に関する研究知見が知られている。
  • 解決は通知を消すことではなく、つながりの既定値を「常時オン」から「必要時オン」へ設計し直すことにある。
  • 静かさは生産性のための手段であると同時に、働く環境の質そのものでもある。

オフィスがネットワークにつながるほど、皮肉なことに、まとまった時間が取りにくくなった。チャットの未読、在席状況の表示、カレンダーの通知、共同編集の更新。どれも善意で設計された接続だが、それらが一斉に注意を引くと、思考は数分ごとに途切れる。接続空間における集中とは、つながりを増やす設計と、つながりを絞る設計のせめぎ合いのなかにある。

中断のコスト

注意と中断をめぐる研究では、いったん作業を中断すると、元の集中状態へ戻るまでに無視できない時間がかかることが繰り返し示されてきた。カリフォルニア大学アーバイン校のグローリア・マークらによる一連の研究は、職場における注意の断片化と、中断後の復帰の難しさを論じている。短い通知そのものより、通知が連れてくる「戻る手間」のほうが重い。

接続されたオフィスは、この中断を構造的に生みやすい。誰かの在席表示が変わるたび、共同文書が更新されるたび、環境が「いま見て」と小さく合図する。先回りするアンビエントUIと同じく、善意で動きすぎる環境が、結果として集中を削っていく。

消すのではなく、既定を変える

対策として通知を全部切ればよい、とは言えない。接続には正当な理由がある。緊急の連絡や、後回しにできない合意。問題はつながりの有無ではなく、つながりの既定値だ。すべてを常時オンにしておくのか、必要なときだけオンにするのか。総務省が整理してきたテレワークや働き方の資料でも、ツールの導入と運用ルールはセットで語られてきた。

もっとも、既定を「必要時オン」に倒すと、今度は必要な連絡を見落とすリスクが出る。静かさと取りこぼしは逆を向く。だからこそ、何を常時届け、何を後回しにできるかの線引きが、接続空間の設計の核心になる。規格がそろうことで機器の制御が空間単位になるように、通知の制御もまた、個人単位から場の単位へ設計し直せる余地がある。

静けさを設計する

つながりすぎたオフィスの処方箋は、切断ではなく設計だ。どこをつなぎ、どこを静かに保つか。裏を返せば、常時接続が当たり前になった環境では、静けさは放っておいて得られるものではなく、意図的に作り出す対象になった。観測誌として記しておきたいのは、生産性という言葉で語られがちなこの問題が、実は働く環境の質の問題でもある、という点だ。集中できる静けさは、効率の手段であると同時に、それ自体が守るべき環境だと考えたい。

広告

観測ノート

環境計算の動きを、月に一度だけ

アンビエントコンピューティングと見えないインフラの観測記録を、まとめてお届けします。